解析範囲の設定
対象地域のポリゴンに基づき、解析対象となる平面格子範囲を定義します。
本ページでは、全球水循環モデルの基本仕様、入力データ、3次元モデル構造、水理地質構造、蒸発散・融雪を含む非定常解析、流量再現性評価を整理します。
全球水循環モデルは、統合型水循環シミュレーションシステム GETFLOWS を基盤とし、全球域の地表水・地下水流動を評価する広域水循環モデルです。全球で整備された地形・水系・地質・土壌・土地利用・植生・気象・観測データを格子単位で統合し、地表水・地下水の流動、涵養、湧出、蒸発散を同一の3次元モデル領域内で扱います。
地表面形状と集水条件の定義
地表水境界と水域条件の設定
表土・被覆層・基盤岩類と風化・弛み区分による水理物性設定
降水・可能蒸発散量・日別気象の外力条件
本セクションでは、全球水循環モデルの代表仕様を示します。本モデルは、GETFLOWSによる地表水・地下水連成、水相・気相の二相流体系を基本とし、平均的な外力条件のもとで人為的水利用を考慮しない自然平衡状態を評価します。
| 名称 | 全球水循環モデル |
|---|---|
| 使用シミュレータ | 統合型水循環シミュレーションシステム GETFLOWS |
| 流体システム | 地表地下連成、水・空気の気液2相流れ |
| 解析範囲 | 南緯60度から北緯84度程度の全球域 |
| 水平解像度 | 10分 × 10分(赤道付近で約18.6km × 18.6km) |
| 鉛直分割 | 15層構成 |
| 解析下限 | 標高-3000m |
| 解析条件 | 人為的水利用を考慮しない、平均的な外力条件下での自然平衡状態 |
| 定常気象外力 | CHELSA V2.1の降水量、CHELSA V2.1の可能蒸発散量を経験的係数0.65で補正した通年一定外力 |
| 流体物性(水) | 密度 1,000 kg/m³、粘性係数 1.0×10⁻³ Pa·s、圧縮率 4.5×10⁻¹⁰ 1/Pa |
| 流体物性(空気) | 密度 1.22 kg/m³、粘性係数 1.82×10⁻⁵ Pa·s、圧縮率は圧力の逆数に比例 |
| 境界条件 | 大気圧は標準大気圧、底面・側面は不透水壁境界、潮位はMSL 0mで固定 |
本モデルでは、全球で整備されている外部データとモデル用に作成した推定値・派生データを、格子ごとの地形、水域、地質、土壌、土地利用、植生、気象、観測情報へ変換して組み込みます。ここではモデルに入力するデータとしての役割に絞って整理します。
使用した外部データソース一覧は別ページにまとめています。
| 分類 | データセット | 概要 |
|---|---|---|
| 気象・気候 | 気候区分 | Köppen-Geiger全球気候区分を用いて、地形・気候に応じた表層条件や地域特性を整理します。 |
| 気象・気候 | 平年気象 | CHELSA v2.1の降水量・可能蒸発散量を年平均日量へ整え、定常解析の外力として使用します。 |
| 気象・気候 | 日別気象 | ERA5の日別降水、気温、風速、地表気圧、相対湿度、短波・長波放射を、非定常解析の外力として使用します。 |
| 気象・気候 | 将来気候入力 | ISIMIP / CMIP6系のGCM入力を全球モデルへ割り当て、将来条件の比較に使用します。 |
| 地形・水系 | 陸域標高 | AW3D30を地表面、地形起伏、風化面作成の基礎情報として使用します。 |
| 地形・水系 | 海底地形・海域 | GEBCOを用いて、沿岸域を含む海域セル、水深、境界条件を整理します。 |
| 地形・水系 | 河道網・河床高 | HydroSHEDS v1の集水面積と標高を用いて、河道位置、河床高、水系の地形情報を整理します。 |
| 地形・水系 | 湖沼地形 | HydroLAKES、GLOBathyなどを用いて、湖沼範囲、湖面標高、湖底標高を整理します。 |
| 地質・土壌 | 表土・被覆層 | SoilGridsの砂・シルト・粘土含有率とバルク密度をもとに、表土・被覆層を水理物性クラスとして整理します。 |
| 地質・土壌 | 風化・地形面 | AW3D30由来の地形、気候区分、水理タイプ、風化面を組み合わせ、浅部から深部へ向かう地盤構成を整理します。 |
| 地質・土壌 | 基盤岩類 | USGSの世界地質図を本モデル用の地質記号へ再分類したものを用いて、深部の水理物性として整理します。 |
| 地質・土壌 | 水理物性 | 一般値・文献値をもとに整理した水理物性リストにより、地質、土壌、風化帯を水理物性クラスとして整理します。 |
| 土地利用・植生 | 土地利用 | GLCLUC2019を用いて、森林、農地、市街地、水域などの土地利用区分を地表条件として整理します。 |
| 土地利用・植生 | 植生タイプ | ESA CCI PFTを用いて森林タイプを区分し、森林蒸発散を評価する際の植生条件として使用します。 |
| 土地利用・植生 | 樹高 | ETH Global Canopy Height 2020の樹高情報を、森林域の蒸発散や植生パラメータを設定する際に使用します。 |
| 土地利用・植生 | 樹木密度 | Crowther et al. の全球樹木密度データを、樹高とあわせて非定常解析の森林構造として反映します。 |
| 土地利用・植生 | 葉の季節性 | ERA5の日別気象からGSIを計算し、着葉日・落葉日として森林や植生域の季節変化を反映します。 |
| 土地利用・植生 | 作物係数 | ISIMIP3の作物カレンダー、ERA5気象条件をもとに、FAO-56モデル用の作物係数と土壌蒸発係数を作成し、農地などの蒸発散条件に使用します。 |
| 観測 | 観測流量 | GRDC-Caravanなどの河川流量観測の時系列データを用いて、計算流量との比較によりモデル再現性の診断を行います。 |
このセクションでは、解析範囲、平面格子、地表面条件、深度方向の層構成を扱います。
対象地域のポリゴンに基づき、解析対象となる平面格子範囲を定義します。
対象範囲を所定の水平解像度で分割し、モデル計算の平面格子を作成します。
標高、河川、湖沼、海域、土地利用、気象、植生を格子単位で整理します。
地表面から解析下限までを深度方向に分割し、3次元計算領域を構成します。
地質図や土壌図に含まれる分類情報を、モデル計算で用いる水理物性へ変換します。ここでは、表土・水域底質、被覆層、風化・弛み区分、基盤岩類をどのように整理し、透水性、貯留性、不飽和帯の水分保持特性へ反映するかを示します。
| 要素 | 内容 | モデルで反映する性質 |
|---|---|---|
| 透水係数 | 地層や土壌を水が通りやすいかを表す値 | 地下水流動、河川への流出、涵養量に影響します。 |
| 異方性 kv/kh | 鉛直方向と水平方向の透水性の違い | 地下水が横へ流れやすいか、下へ浸透しやすいかを調整します。 |
| 有効空隙率 | 水の移動に関わる空隙の割合 | 地下に蓄えられる水量や流動速度に関係します。 |
| 2相流特性 | 水と空気が同じ空間を占めるときの水分保持特性 | 不飽和帯の浸透、蒸発、保水の表現に使います。 |
| 比貯留係数 | 圧力変化に対してどれだけ水を出し入れするかを表す値 | 地下水位変化や貯留変化の評価に関係します。 |
表土・水域底質、被覆層、風化・弛み区分、基盤岩類では、水理物性が異なります。ここでは、各データセットをどの地質・土壌要素として扱い、どの水理物性へ反映するかを整理します。
| 要素 | 内容 | モデルで反映する性質 |
|---|---|---|
| 表土 | 砂・シルト・粘土含有率、バルク密度、土壌水分特性 | 地表近くの浸透しやすさ、保水性、有効空隙率、貯留性を設定します。 |
| 被覆層 | 地形区分で対象範囲を選び、砂・シルト・粘土含有率とバルク密度を重ねます。 | 平野・台地・丘陵などの浅部地盤として、表土とは別の材料を割り当てます。 |
| 水域底質 | 河川、湖沼、海域の判定 | 水域と地下の水の出入り、浸透・湧出の場を表現します。 |
| 要素 | 内容 | モデルで反映する性質 |
|---|---|---|
| 区分面ラスタ | 地形標高、接峰面、接谷面などから、浅部から深部へ向かう複数の基底面を標高データとして整備します。 | 基盤岩類の平面分布に重ね、深度方向の風化・弛み程度を決めます。 |
| 水理物性の深度変化 | 同じ基盤岩類でも、浅部ほど相対的に流れやすく、深部ほど流れにくい構成にします。 | 平面分布した地質区分に、深度方向の水理物性変化を与えます。 |
| 3次元化 | 基盤岩類の平面分布と風化・弛み区分面を重ね合わせます。 | 地質区分と深度方向の物性変化を組み合わせた3次元水理地質構造を構成します。 |
| 要素 | 内容 | モデルで反映する性質 |
|---|---|---|
| 基盤岩類分布 | 地質図から読み取る基盤岩類と、海域や分類が不足する地点を一貫したルールで補った基盤岩類分布を整理します。 | 解析範囲全体で連続する深部地質構造として扱います。 |
| 堆積岩類 | 堆積岩の年代や岩相を整理します。 | 砂岩、泥岩、炭酸塩岩などの違いを、深部の透水性や貯留性に反映します。 |
| 火山岩類 | 苦鉄質、中性、珪長質などの岩質と年代を整理します。 | 火山岩地域の地下水流動や貯留の違いを表現します。 |
| 深成岩・変成岩類 | 花崗岩類や片麻岩類など、深部基盤を構成する岩石を整理します。 | 広域地下水流動の背景となる深部構造として扱います。 |
全球モデルの定常解析では、CHELSA V2.1の可能蒸発散量を通年一定の外力条件として与えます。一方、流量再現性の確認や季節変化の診断では、日別気象を用いた非定常解析を実施し、森林、農地、その他の土地利用区分ごとに蒸発散条件を設定します。降雪地域では積雪・融雪過程を別途扱い、水入力を降雨量と融雪量の合計として与えます。
| 対象 | 主な入力・設定 | モデルでの使い方 |
|---|---|---|
| 定常解析 | CHELSA v2.1のpet × 0.65 | 全球水循環モデルの自然平衡状態では、CHELSA由来の可能蒸発散量を補正し、通年一定外力として使用します。 |
| 森林の非定常解析 | ESA CCI PFT、樹高、樹木密度、GSI由来の着葉日・落葉日、日別気象 | 林床面蒸発モデルと、森林タイプ・林分構造・気象条件を考慮する樹冠遮断・蒸散モデルを組み合わせ、樹冠遮断、蒸散、林床面蒸発を分けて評価します。 |
| 農地・その他の非定常解析 | FAO-56モデル用の作物係数と土壌蒸発係数、ISIMIP3の作物カレンダー、ERA5気象条件 | FAO-56 Penman-Monteithにより参照蒸発散量を求め、農地やその他地表の蒸散・蒸発成分を評価します。 |
| 積雪・融雪の非定常解析 | 日別気象、降雨量、融雪量 | 降雪地域では、深沢・多田(2024)の考え方に沿って積雪・融雪を考慮し、モデルへ入る水量を降雨量+融雪量として整理します。 |
| 実蒸発散への変換 | 表土物性に応じた蒸発散効率 | 可能蒸発散量をそのまま実蒸発散量とせず、表土物性と水分状態に応じて低減します。森林域はFeddes et al. (1978)の根域吸水モデル、森林以外はLehmann et al. (2018)に基づく蒸発効率を使います。 |
| モデルへの反映 | 入力水量、可能蒸発散量、実蒸発散量 | 降雨・融雪、降雨遮断、蒸発散効率を反映した水の出入りとして、地表水・地下水を一体で扱う水循環計算に与えます。 |
全球モデルでは、GRDC-Caravanなどの観測流量データを利用できる地域について、日別の観測流量と計算流量を同一形式で比較しています。このセクションでは、地域が異なる流域に対する流量時系列の代表例を示し、広域モデルとしての流量再現性を確認します。
本図は、複数地域で同じ手順により観測流量と計算流量を比較した代表例です。地点ごとの再現性は、利用可能な観測流量データ、流域面積、河道表現、乾燥・間欠流の有無などにより異なります。
モデル解析結果は、地図表示および地域診断レポートとして整理できます。入力データと解析結果を重ねて確認することで、地形、地質、土地利用、気象条件が水循環量に与える影響を評価します。
地表面を基準とした地下水面位置とその空間分布を評価します。
G.L. m河川、湖沼、低地などにおける地表水深の空間分布を評価します。
m表土層に水がどの程度満たされているかを評価します。
-河川や地表面を通じて移動する水量を把握します。
m³/day地下で水がどの方向へ、どの程度移動するかを評価します。
m³/day降雨などが地下へ入り、地下水として補給される量を評価します。
mm/day地下から地表や河川へ戻る水の分布と量を確認します。
mm/day地表面や水面から大気へ戻る水量を評価します。
mm/day地下や不飽和帯を通じて大気へ戻る水量を評価します。
mm/day可能蒸発量に対して、実際に蒸発する割合を整理します。
-流出や涵養に寄与する降水量を水循環量として整理します。
mm地表水・地下水の流動方向と流況を可視化します。
flow lines